経営監視vol.13「社長補佐役 まさかのメガバンク社員兼職」

朝日新聞を調査報道する――
朝日新聞社や関連会社で働く人を守る労働組合「朝日新聞再生機構」機関誌
(2020年6月21日発行)
 

社長補佐役 まさかのメガバンク社員兼職

 渡辺雅隆社長が自身の補佐役として迎え入れ、朝日新聞社の経営中枢に陣取る岩本朗氏が、メガバンクのみずほフィナンシャルグループにもアドバイザーとして勤務し、兼業していることが明らかになりました。さらに5月22日からはアパレル大手のTSIホールディンスの社外取締役にも就任しています。独立性が重要な新聞社において、経営の中枢に社外から人材を招き、取締役会にも同席させているということは自体きわめて異例であり、本社の主体性や独立性を危うくするものと思いますが、よりによってその当事者が他の大企業からも報酬を得て兼職していたというのですから驚きです。

 朝日新聞社はこれまでこうした事実を社内にきちんと説明をしてきませんでした。朝日新聞・渡辺体制の説明責任が求められています。

 岩本氏の兼職の事実を把握した朝日新聞再生機構は4月8日(水)に会社に対し、岩本社長補佐役がみずほの社員と兼職しているかどうかについて質問しました。会社側は4月28日付で、兼職については「個人情報なので答えられない」と回答しつつも、「兼職は当初から想定していた」「本社での職務に支障が生じないことが条件」「秘密保持義務を課している」と答えました。

 会社側が「個人情報だから答えられない」というのに、岩本氏は自身のフェイスブックの勤務先欄に「朝日新聞社」と「みずほフィナンシャルグループ」と堂々と表記していました(現在は削除)。さらに「みずほフィナンシャルグループで新しい仕事をスタート(2019年4月1日)」と表明しています。

 このことに基づき会社に再度質問すると(5月19日)、今度は一転して、岩本氏の身分は「非常勤」の特別嘱託であると説明し、「一般の企業にはよくあることだ。経営の裁量の範囲内だ」と開き直りました。これに対して、当組合(再生機構)は6月9日付で「岩本氏が非常勤であることについて、いままで社員に対して秘匿していたことは社員に対する背信行為だ」として、その理由などを再質問しました。

→ 質問書と回答(PDF)はこちら】 ※パスワードをご存知の方のみ閲覧可能です。


入社について大々的にアピールしたのに、
その後の兼職に十分な説明なし

 渡辺社長は2016年11月30日に、岩本氏の社長補佐役に就任について、社員に対して詳細に説明し、その役割は社員の働き方、労働条件にも関わっていくことを大々的にアピールしていました。しかし、兼職することが可能な特別嘱託という処遇で招聘し、実際に他の大企業との兼業をしていたことは社員に明らかにしてきていませんでした。会社は非常勤の岩本補佐役に「職務に支障が生じないことを条件」に兼職を認めたとしていますが、そもそも重責を担う社長補佐役が非常勤で、しかも他企業と兼職で務まるのでしょうか。このように「当初から予想して」いながら、社員に発表しなかったのは、社員から批判されるのを避けたかったからでしょう。

 私たちは岩本氏と同時期に入社して、すでに退社しているH氏の業績についても質問しました。会社は「個々の従業員の業績について説明する必要はない」と突っぱねていますが、岩本社長補佐役もH氏も2020中計に基づいて、他業界から特別に招聘した人物です。その人物についての業績についても会社に説明責任があると主張しています。

兼職の弊害

 新聞社には記事になる以前に様々な情報が集まってきます。機微な情報に触れる可能性がある現職の社長補佐役が、メガバンクのアドバイザーになることは許されるのでしょうか。そもそも自分のフェイスブックに新聞社と銀行の社員兼職を公表すること自体、新聞社の重職に就く者として配慮を欠く行為です。

 会社は社員に対し、有価証券取引に関する社内規定の順守を要求していますが、社長補佐役に対しては、こんな特別待遇とも呼べるほどの緩い規制でいいのでしょうか。私たちはこの問題について会社に対し強く抗議していくとともに、知りえた情報を組合員らに広く開示していきます。


2020中計の無反省

 岩本氏やH氏の採用の元ともなった2020中計は完全に失敗しました。これについて渡辺体制は自らの責任をうやむやにして、次の新しい計画「2023中計策定」にすり替えてしまい、旧中計の総括をまともにしていません。これについて社員に説明する予定があるのかと質問すると、「年頭メッセージでていねいに説明している」との答えです。

 質疑応答もない新年あいさつでの社長の話を、一体だれが2020中計に対する総括の説明だと思ったでしょうか。そもそもここまでの中計失敗は「一般企業」では経営陣、なかんずく社長の引責辞任が普通です。社員に対する無責任極まりない行為です。この対応についても会社に対して強く抗議しています。


2030プロジェクトの内容は社員に公開せず

 岩本社長補佐役がファシリテータ役を務めた「2030プロジェクト」はその存在と会議の実施についてしか説明がなされていません。これも立ち上げの時は大々的に社員にアピールしました。しかし、いつの間にかお蔵入りし、再生機構がこの公開を求めたところ、「経営陣への提言を求めたプロジェクトで、もともと社員向けに公開することを前提としていない」との答えでした。さらに、社内ポータル上で「10年後のメディアや社会、そして朝日新聞社のありようを考察したプロジェクトメンバーの報告抜粋」を公開したとのこと。これはごく一般的な未来予想図に過ぎないと抗議し、社員に同プロジェクトの公開、ていねいな説明を求めました。

 このように経営陣は自分たちの都合のいいことは社員にアピールするものの、都合が悪いことは隠ぺいする相変わらずの体質です。これで経営陣を信頼せよというのは無理な相談です。朝日新聞社の体質をこれ以上、非民主主義的にしないよう、我々は戦っていきます。

 今後もぜひ深いご理解とご支援を、そしてともに行動して、私たちの朝日新聞社をよりよい働きやすい企業に変えていきましょう。